1 陽花

【ORICON NEWS】『台風家族』剛インタビューA

――笑えることはもちろんですが、「この人クズ!」と思う行動が、実は愛情の裏返しだったりして、その不器用さにホロリとするシーンも多かったです。

【草なぎ剛】脚本は、すごく良くできていると思う。監督も、「こんなに緻密に計算されたホンはない」と自負してました(笑)。僕自身も、「監督は天才かもしれない」と思うほど、全ての台詞が緻密な計算の上に成り立っている。どんな些細な台詞にも、ちゃんとそれを言うだけの背景があって、次のシーンへと確かなバトンを渡している。でも、僕がそのことに気づいたのは、出来上がった映画を観てからです。撮っている時は、「これ伝わるのかな? 大丈夫かな?」ってすごく心配だった。でも完成を観たら、「そうだったのか」と、すべてが腑に落ちて。

――撮影中には気づかなかったと。

【草なぎ剛】一つは、暑い中での撮影だったこともあると思うんです。台詞の意味を説明されるんだけど、暑すぎて、言ってることがよくわからなかったりしたから(笑)。後半は、ワンシチュエーションの会話劇からロードムービーっぽい展開になるんですが、それも面白いのかどうか、やっている方は半信半疑というか…。でもすべてが繋がってみたら、監督が描きたかったことがわかって、監督のことをすごく好きになった。撮影中は、水と油の関係性だったから(笑)。

――水と油? 普段穏やかな草なぎさんからそんな言葉が出るのは意外です。

【草なぎ剛】作品に対するアプローチが真逆という意味です。正直いうと、僕はリハーサルとか、あまり気が進まない方なんです。本番まではあまり作り込み過ぎないで、余白を残していきたい。その場で生まれたものを大事にして、自由にやりたいなって思うタイプ。でも監督は、「前日入りして入念にリハーサルをしよう!」と言っちゃう人(笑)。そのリハーサルも夜中までやったりして、とにかく真面目なんです。1分1秒たりとも集中力を切らさずに、モニターを見つめているような感じだから、逆にこっちが緊張してきちゃって。ときには、モニターじゃなくカメラの横から僕らを見るので、「近い!」「やりにくい!」って思うほど、圧がすごかった(笑)。その真面目さに面食らいました。

――それは強烈ですね。

【草なぎ剛】でも、だからこそ、僕の心の中の小鉄をあぶり出してくれたのかなとも思う。いつものようにやっていると、そこから抜け出せなかったかもしれないから。それとも、妥協しない監督のしつこさが、小鉄に乗り移ったのかな。最後は現場にいる誰もが、「監督のために頑張ろう!」というふうになっていましたね。監督は、まさに台風の目でした。僕らは現場で、市井昌秀という台風に巻き込まれただけなのかもしれない。

――「新しい地図」の3人は、今年2月に稲垣さんが『半世界』、6月に香取さんが『凪待ち』、9月に草なぎさんが『台風家族』と、それぞれ父親役を演じられていますね。

【草なぎ剛】『凪待ち』も『半世界』も、僕は劇場に観に行きました。今までの彼らの作品ももちろんいいんだけど、2人とも演技に重厚感があって、違うステージに入ったなという気がした。役の魅力を余すところなく表現していて、雰囲気もオーラも佇まいも、何もかもがカッコイイなと。それぞれ家族の話を演じているんだけど、僕のだけちょっとコメディで。三人三様だよね。2人の映画も魅力的で、自分がやったらどうなるかなと想像したりしました。ただ僕は、『半世界』も『凪待ち』も劇場に観に行ったのに、2人からは「DVD貸してよ」と言われているのが納得いかない(笑)。貸さないでほしい。この映画に関しては特に、ちゃんと劇場で観てほしいんです。

――「新しい地図」としてスタートする前、2人の映画を劇場で観たことは?

【草なぎ剛】それまでは…観に行ってなかったです。僕も「DVD貸して!」と言ってた(笑)。でも、僕も今ではすっかり劇場派です。特に『台風家族』は、かなり攻めてる映画なんです! 前半のネチネチ、ムシムシした会話劇では、密室なのに家族の心がバラバラなんだけど、あることがきっかけでみんなの心が繋がっていく。本当に台風みたいな映画だから、大きなスクリーンで、その渦に巻き込まれてほしい。ただ、そういう映画だから、まだ一般の人たちが観て本当に面白いと感じてくれるのかが不安です(笑)。早く公開されて、ツイッターとかで生の感想を聞きたいです!


(19/9/5(木)ORICON NEWS)