1 鈴木♂

SM元年

サド・マゾヒズムという言葉を命名したオーストリアの法精神医学者リヒャルト・
フォン・クラフト=エビング男爵について調べていたら、ちょっと面白い事を
発見致しました。

彼は1886年に出版した「変態性欲心理」(Psychopathia Sexualis)という性的倒錯者
の症例集の中でサディズムとマゾヒズムという言葉を世界で初めて使ったのですが
1886年に出版された初版からこの言葉が登場していた訳ではなく、1891年に出版
された第6版に初めてサディズムとマゾヒズムという言葉が登場したのだそうです。
ではそれまでに、この本の中の症例にサディストやマゾヒストが登場しないのか
というとそうではなく、初版から第5版まではそれらの人々の事を「鞭打ち症」
という名前で呼んでいました。
おそらくは相手を鞭で打ったり、打たれる事を好む人々という意味なのではないか
と鈴木♂は思います。
しかしエビングも数百件の症例を集めて行くうちに、上記の「鞭打ち症」という
カテゴリ分けをそのまま適用して行くと「緊縛症」とか「尻打ち症」という感じで
無限に増え続けるという事が分かってサド・マゾヒズムという二つのカテゴリ分け
を思いついたのかもしれませんね。
これらの事を考えてみるとサディズムやマゾヒズムという言葉や概念が、世界で
初めて公表されたのは1891年(明治24年)の事ですから、それが人類に於ける
SM元年といっても良いのかもしれません。
(PC)
2 鈴木♂
この本は初版が出版された時点では卑猥な言葉や性器の名称をそのままドイツ語
で掲載していたそうなのですが、翌年に出版された第2版ではそれらの言葉だけ
ラテン語に書き直されていたそうです。
これは何故かというとエビング自身はあくまでも医学者向けにこの本を書いた
のですが、エロ本の代わりに買うという一般人が多くて(-_-;)こうした措置を
取ったのだそうです。
ちなみに当時のヨーロッパでは、英語はまだメジャーな言語ではなく旧制中学か
高校辺りでラテン語を習いますから、知識人である医学者が読むには問題無い
という事ですね。
なおこの本の日本語訳は今でも入手できますが、1902年に発行された第12版を
翻訳しているみたいです。

エビングという人はオーストリアのカソリック教会と対立しながら、同性愛や
性的倒錯の研究をしていた人でした。
当時のヨーロッパでは男性同性愛者というだけで刑務所や精神病院に入れられる
という時代でしたから、貴族でもあり大学教授でもあったエビングにとって
この研究はかなりの冒険だったろうと思います。
なおエビング自身は数百人のマイノリティな人々と面談するうちに、次第に彼らを
擁護する立場となりました。それが結果的にカソリック教会と対立する結果になる
のですが、彼のこんな言葉にその姿勢を見る事ができると私は思います。

 「(私は)淫婦などというものに未だかつてお眼にかかったことがない」
                      R・F・V・クラフト=エビング
(PC)