1 鈴木♂

川底

盛夏なので前回に引き続いて今回も怪談噺を書いてみます。

これは鈴木♂が今から20年位前に県内のある村で聞いたお話です。
当時その村には高校を卒業したばかりの女の子が住んでいて、彼女は卒業式が
終わってすぐのある日、彼氏と一緒に山形県の酒田・鶴岡方面にドライブに
出かけました。
二人の乗った車は山形県に入り、とある大きな川の上に架かる橋に差し掛かった
のですが、そこで悲劇は起こりました。

この事故が自損事故だったのか、それとも接触事故だったのか鈴木♂は失念して
しまいましたが、二人の乗った車は橋の欄干を突き破り、そのまま川に転落して
しまったのです。
勿論すぐに警察や救急隊が出動したのですが、川は3月の雪融け水による増水で
急流となっていて、それでも捜索の為にダイバーが川に潜って二人の乗った車を
発見したのですが車は川底にある大きな流木の下に潜り込む様な形で沈んでいて
二人の救助はおろか、川の水が退いてからクレーンを使って流木を退かさない
限り遺体の収容も不可能という悲惨な状況だったそうです。

この事故を知った彼女の家族は勿論悲嘆致しましたが、そういった状況では
仕方がないと諦め、川の水が退いて遺体が帰宅してから葬儀を行う事にしました。
しかし、彼女の家では事故が発生してから異変が起こり始めたのです。
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2 鈴木♂
亡くなった彼女の家では昼の間は普段と変わりない平穏な状態だったのですが
夜になると家財道具が独りでに動き始め、それは揺れたり倒れたりといった
生易しいものではなく、見えない何者かが力いっぱい物を投げつけている
といった感じで家財道具や食器が空中を飛んでいたそうです。

鈴木♂がこの事故の直後に聞いたこのお話はここで終わります。
それからどうなったのか、この怪奇現象の原因は何なのかという事も鈴木♂自身
分かりません。
しかし高校を卒業した直後というこれから自分の人生が始まるのだといった状態
の彼女が彼氏とドライブに出かけ、そして想像もできなかったであろう死を突然
迎えてしまったのなら、その無念さと驚きは想像を絶するものがあったのでは
ないかと鈴木♂は思います。

ちなみに欧米の心霊研究ではこういったポルターガイスト(騒霊)現象が起こる
家には殆どの場合思春期の子供がいて、その子供たちが無意識のうちに見えない
力(念力?)を使ってこういった現象を引き起こしているのだという研究報告が
一般的なのですが、彼女の家にそういった子供がいたのかどうかも不明です。
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