1 陽花

【リアルサウンド】慎吾『20200101』インタビュ(後編)A

ーー聴く側としては、香取さんの今の心境が、今回の歌詞に表れているのかなと、その意味性みたいなものを深読みしがちですけど、あながちそういうものではないと。

香取:そうですね。まあ、そういうものも、もちろんあるのかもしれないですけど、変な話、もう一枚アルバムを作っても、きっと同じような歌詞になるのかもしれないなっていうのはちょっと思っていて。というのは、僕の中に流れているものは変わらないから。それは今だからっていうことではなく、やっぱりプラスの前向きな言葉だけでは生きていけないというか、辛さとか苦悩みたいなものもあるわけですよね。そういう意味では、仮に次のアルバムがあったとしても、きっとそういうものが入ってくる。そんなに上を向いていないような部分も、必ず入ってくると思うんですよね。

ーー今の香取さんの心境を表したというよりも、香取さん自身が変わらず持っているものが、今回のアルバムの歌詞に出ている。

香取:うん、そうかもしれないです。僕、2019年に初めて絵の個展をやらせてもらったんですけど、その絵の中には、もう疲れちゃったなとか、上を向けないような絵がけっこうあったんですよね。で、そういうものを見て、「今までの香取慎吾では見たことがなかった」って驚いた方もいたみたいなんですけど、個展をやるときに、その絵を外そうっていうことは、まったく考えなかったんです。全部、僕が描いてきたものだし、いいことばっかりじゃないっていう思いは、常に自分の中にあるものだから。最後にあきらめることさえしなければ、多少ネガティブなことを言ったり、表現してもいいんじゃないかって思っているんです。

ーーなるほど。香取さんっぽいですね。

香取:ただ、今回のアルバムに関して言えば、絵のように自分ひとりで作っているものではなく、いろんなアーティストの方々と一緒に作ったものなので。だから、ここで歌われている言葉は、もちろん僕の言葉なんだけど、僕だけの言葉じゃないっていう(笑)。そういう感じなのかもしれないです。

◆不特定多数の“その人”を「えっ!」って言わせたい

ーーいわゆる“私小説”的な歌詞ではないと。そう、今、絵の話が出てきましたが、香取さんは、歌はもちろん、お芝居や絵など、さまざまな表現活動をされていますよね。それらの中に、何か共通するものって、あったりするのですか?

香取:共通するもの……うーん、やっぱり、応援してくれる人がいることですね。ファンの方々というよりは、“その人”というイメージがぴったりくるイメージなんですけど。こないだ“その人”には、僕の絵を見てもらったけど、その次は急に歌です、今度はアルバムですって言ったら、“その人”はきっと「えっ!」ってビックリしてくれるだろうなとか。そういう不特定多数の“その人”が必ずいてくれるからこそ、“その人”たちを、より「えっ!」って言わせたいみたいな。全部、そういう感じなんです。

ーーその“思い”が、ここ数年で、強まってきていたりするのでは?

香取:いや、それはずーっと変わらず、僕の中にあるものなので。そう、絵を描くことも含めて、全部エンターテインメントだと思っているんです。だから、お芝居も歌も、ステージで踊ることも、バラエティ番組に出ることも、僕にとっては何も変わらないというか。僕みたいな職業というのは、それを受け止めてくれて、笑ってくれる人がいないと、まったく無意味な職業じゃないですか。なので、そういう人がいてくれているっていう安心感はすごくあるし、基本的には全部、その人たちに向けてやっていることなんですよね。

ーーただ、SNSの時代になって、そういうファンの存在を、さらに実感したところもあるんじゃないですか?

香取:ああ、そうですね。そこは大きいかもしれないです。「あ、みんな、こんなふうに思っているんだ」とか、そういうことが、今はすぐにわかりますから。でも、こうして改めて、今まで自分がやってきたことを振り返ってみると、ちょっと面白いですよね……。

ーーん? それはどういう意味で?

香取:いや、これまではずっと、自分たちで楽曲を作っていなかったというか、曲を提供してもらって、それを歌っていたわけじゃないですか。それと、実際に自分が音楽を作る中に入っていくというのは、まったく違うことなんだなって、今回改めて思ったんです。今回一緒にやらせてもらったみなさんって、ほとんどの人が自分たちで曲も歌詞も作っているわけじゃないですか。で、それはもちろん、作業的にすごく楽しいことなんだけど、やっぱり苦悩の部分もあるし、「果たして、これが正解なんだろうか?」って、延々考え続けたりするわけですよね。

続く→