1 鈴木♂

夏休み読書感想文

鈴木♂は最近やっと濡木痴夢男氏の新刊「『奇談クラブ』とその周辺」を入手
致しまして、このお盆休みに読みました。
本の内容は、三分の一が前作で書き漏らした最後期の「奇譚クラブ」について、
三分の一が濡木氏が初めて編集長となったSM雑誌「裏窓」について、残る
三分の一が昭和30年代後半の全国的な悪書追放運動によるSM雑誌への弾圧に
ついて、といった処でしょうか。

なお、この本には書かれておりませんが、昭和40年1月に「裏窓」が廃刊した後
濡木氏は初代「サスペンス&ミステリーマガジン」(俗に言うSMマガジン)を
立ち上げ、それが休刊した後の昭和46年に「SMコレクター」を立ち上げますが
それが濡木氏と美濃村晃氏がタッグを組んだ最後の雑誌となりました。
なお、SMコレクター誌が創刊されて数年後(昭和47〜48年頃?)に、編集長が
代わった二代目「SMマガジン」が復刊し、それが現在でも鈴木♂や皆様の御記憶
に残る「SMマガジン」となる訳です。
(PC)
2 鈴木♂
私がこの本を読んでちょっとびっくりした事は「裏窓」の表紙を一時期、堂昌一
氏が書いていたという事でした。
堂氏は今や新聞連載小説や著名な小説家の挿絵がメインの仕事だという大家と
なりましたが「裏窓」時代はまだ無名で、美人画で有名な岩田専太郎氏の弟子
だったそうですから、SM雑誌の一編集者に留まらず当時の文化人とも多彩な
交流のあった美濃村晃氏の事ですから、そこら辺から堂氏と知り合ったのかも
しれませんね。
なお堂氏が一躍有名となったのは、週刊文春で松本清張氏が連載していた
「西海道談綺」という時代小説の挿し絵を急死した岩田氏に代わって描き始めた
という事からでした。
鈴木♂も当時(昭和49年頃)中学生ながらも、父親が買う週刊文春を読むという
ませた少年でしたから、ここら辺の経緯は今でも覚えております。

なお、堂氏は有名になってからも別名義で各SM雑誌にイラストを書き続け
ました。
鈴木♂の記憶が正しければ、堂氏が挿し絵を書いていたSM小説は何故か
団鬼六氏の小説ばかりで、SM雑誌で使う堂氏の名義は春日章(かすが・あきら)
でしたから、SM愛好家にとってはこちらの名前のほうが、馴染み深い名前なの
かもしれません。
今考えてみると、どうして団氏の小説だけ堂氏の挿し絵だったのか、本当の処は
分かりませんがおそらくは団氏の指名だったのではないかと鈴木♂は思います。
(PC)
3 鈴木♂
この本の解説で室井亜砂二氏が「本書は今後、戦後の風俗雑誌を研究しようとする
人達にとって、必読の資料本になるだろう。」と書かれておりますが、鈴木♂も
前作「奇譚クラブの絵師たち」を含めてそう思います。
現代の若い方たちにとってSMというものは、風俗業としてのSMクラブや
インターネットのSMサイトを通して、SMという世界は一般にも開かれた
世界だと思われがちですが、実際には'80年代前半までの日本に於けるSM
という世界は暗闇に包まれた世界だったのです。
そんな閉ざされた世界の実相を現代に垣間見せてくれる濡木氏の著作は
SMマニアならずとも、日本人にとって貴重な物ではないかと鈴木♂は思います。

濡木氏が今後もこのシリーズを書くのかどうか分かりませんが、「裏窓」廃刊後
の「SMマガジン」や「SMコレクター」、'80年代に入ってSMビデオの縄師と
なった濡木氏の事についての続刊が鈴木♂は読みたいと思います。
(PC)