15 ◆X0GH
『会いたい』
休止になっていて二度と動くことの無いはずの麻美のキャラからだった。
僕の頭の中は真っ白になった。何が起こったのか分からなかった。僕はメールを何度も読み返して必死にこの現象を理解しようとした。すると頭の中にマイドゥームが三人出てきて阿波踊りを始めた。僕は尚更訳がわからなくなってとりあえず阿波踊りが終わるまで待った。阿波踊りが終わったので頭を働かせようとすると今度は矢野が五人出てきた。しかし矢野は無視した。
16 ◆X0GH
僕は舐めるようにメールを見なおした。確かに麻美からだった。会いたい。麻美が僕に会いたいと言っている。麻美が待っている場所といえば『民宿』しかなかった。僕は傘を捨てて44リボルバーマグナムのように駆け出した。
こんなに人ごみが邪魔だと感じたことは無かった。僕はショットガンエアシュートしながらようやくファミレスに辿り着いた。
僕は雨で全身びしょ濡れになりながら必死に麻美を探した。しかし、ファミレスの入り口に立ち、同じくびしょ濡れで僕を待っていたのは麻美ではなく裕子だった。彼女は僕を見て、
「やっぱり来ちゃったんだ。」
と言って悲しく微笑んだ。
17 ◆X0GH
僕は訳が分からずぽつりと、お、お前がラスボスか、と言った。
彼女は傘を広げて僕にさすと、また悲しく笑った。
「ラスボスとか意味が分からないけど、麻美がね、自殺する前の日に突然私にキャラを送りつけてきたのよ。私も初めは意味が分からなかったわ。でも彼女が自殺してしまってからよく考えてみたの。」
彼女は傘を持っていない方の手で雨に濡れた自分の前髪を掻き上げた。
「きっとこういうことだったと思うのよ。彼女は自分のキャラを私に渡すことで、これから神のことをお願いね。って私に言いたかったんだと思う。」
僕は傘に当たる雨音と彼女の声をどこか遠くの方で聞いている気がした。
でも、と彼女は言った。
18 ◆X0GH
「でも、私にはどうやら無理みたい。だって私はその気でもあなたは死んでしまった麻美のことしか見ていないんだもの。私とあなたが結ばれることで少しは麻美への供養にもなるかと思ったんだけど、駄目ね。残念。」
僕はそっとドッキリの看板を持った人を探したがそんな人は周りには見当たらなかった。
「何をきょろきょろしているの?そういえば、あなた最近スキマニやってないでしょう。駄目よ。あなたは神龍会のリーダーでしょ?神龍会はとても素敵な組織よ。メカに、ヴァイパーに鮭とば、白マ茶、それから、えっと誰だったかしら、ええと・・・ああ八頭身。みんな強くて男前よ。あんな組織他には無いんだから。神龍会が無くなったらきっと麻美だって悲しむわ。またやるって約束して!」
19 ◆X0GH
僕は、約束するよ、と言った。
「よし、じゃあ最後に一回だけ聞くわよ。チャンスを与えてあげる。麻美のことは忘れて、私と付き合いなさい。」
僕はゆっくりと目を閉じて麻美の顔や声や笑顔などを一つ一つ思い出してみた。どれもが記憶の中に鮮明に残っていて、僕の心を優しく包み込んだ。きっとそれが風化するのには相当の時間を要するだろう、と僕は思った。僕は目を開くと、ごめん、と彼女に言った。
「言わないで!こんなにずぶ濡れでこんなに哀れな私を更に振る気?それじゃ私が浮かばれないわよ。だからいい?私があなたを振るの。」
彼女はそう言うと大きく息を吸い込んだ。
20 ◆X0GH
「あなたなんか大嫌い!ほんとに嫌いよ!もう二度と私に近寄らないで!」
彼女は叫びながら僕に抱きついて、頬にキスをした。そしてバイバイ、と言ってから傘を落として人ゴミの中へと走り去って行った。
翌日、麻美のキャラと裕子のキャラは両方とも削除されていた。あれから何度も裕子に電話やメールをしたが、一向に連絡はつかない。何日かした後、裕子は電話番号もメールアドレスも変えた。僕と彼女は完全に切り離された。
昨日、スキマニからメールが来た。『バイスが暴れているから助けてほしい』
といった内容で、差出人はスキマニの仲間だった。
僕は立ち上がり洗面所に行って顔を洗い、ヒゲを綺麗に剃った。そしてソファーに座って携帯を開くと、掲示板に『目梨討伐隊』のスレを立てた。
終わり