1 語りべ

モシモと俺 その5

モシモは言う。

『僕はここが何かわからないし、もう帰りたいんだ。』

『怖がらないでいいんだよ。ここはね、科学館と言ってね、大人や子供が科学を学ぶ場所なんだよ。僕にはあまり意味のない場所だけど。ただひとつ好きな場所があってね。』

『好きな場所?それはどこにあるんだい?』

モシモは男の子と話しているうちに少し肩の力が抜けました。彼の声はよく通り、とても魅力があったのです。

『それは、プラネタリウムと言うんだ。都会では星が見えないだろ?だから僕はプラネタリウムでまぶたに星を写すんだ。』

そういえばモシモは、満天の星空を仰いだことがありません。

『君をそこに招待したいな。さ、僕の手にお乗りよ。』

『あ、でもいいよ。帰りたいんだ。』

『さぁ、僕も一人よりは楽しいから。』

モシモはそっと右の手の平に乗りました。よく見ると彼は左手に白いステッキを持っていました。

二人は壁際をノロリと歩きました。男の子にプラネタリウムまでの道を聞き、モシモは的確にアドバイスを送る。まるで昔からのパートナーのように。

モシモは言います。

『君の名前は…』

『名前?僕等はいま二人きりなんだよ。名前で呼び合わなくていいのさ。僕は君を知りたいんだ。』

モシモは不思議そうに首をかしげました。

『はは、冗談さ。実は僕あまり名前を気に入ってなくてね。カオルと言うんだ。女の子みたいだろ?』

『いや、いい名前だよ。僕はモシモ。』

二人は先程の螺旋階段をクルクル慎重に登りました。二階へ到着すると、横に長いプラネタリウムの、青紫の看板がかかっており、矢印が左右についていました。

『カオル、どっちから入ればいいんだい?』

『左側の席がちょうどいいよ。冬の大三角形の真下なんだ。』

『じゃあ、あと5歩歩いて左だな。』

二人はゆっくり壁側を歩き、赤い革製の重い扉を開けて中に入りました。

薄明かりのドームの中の中央には大砲のような大きい装置がドシンと設置されており、天上には方角がボンヤリ写しだされていました。

二人は、装置を囲むように並んだリクライニング式のシートに腰を降ろしました。モシモはカオルの手に乗ったまま、座りました。しばらくすると、アナウンスが流れ、みるみるうちに暗くなり、カオルの顔も見えなくなりました。

『さぁ始まるよ。』

カオルは小声で言いました。

続く..
(V401SH)