評伝ザッヘル=マゾッホ


E-mailは非公開です。

Password (投稿パス)
Name
Mail
Title
Comment
URL
Password (削除パス)


 
  【No.23 Res.0】

その14


1 Name 鈴木♂
 
一方、レオポルトは「コロメアのドン・ジュアン」がヨーロッパ各国で翻訳され、
注目の作家となっていた。そして、ウィーンで新しく創刊される雑誌の編集長
として招聘されたのだ。
二人にとっては不安でいっぱいのグラーツを離れるチャンスである。
二人はウィーンに新居を構えた。レオポルトは執筆活動と新しい雑誌の経営で
忙しかったが、暇を見付けては、ワンダと二人でウィーンの歴史的名所を見物し、
劇場や寄席に行き、演劇やコメデイを楽しんだ。って、奴隷生活じゃなくて、
のん気な上流階級の文化人の暮らしじゃないか!
さらにはワンダは妊娠までした。

しかし、世の中はそんなにはうまくいかない。
翌年の夏、ウィーンでコレラが流行した。
友人や近所の人が次々に死んだ。そして、二人の間に生まれた男の子もわずか
八日で死んでしまった。
ワンダは怯えた。
これは自分が嘘をついた罰であると。
次に死ぬのは自分だとうち震え、ワンダという女王の虚像が一気に崩れていった。

ワンダはすべてをレオポルトに告白してしまう。
自分はアリスでもエミリーでもない、ただのお針子のラウラであること。
全部、「毛皮を着たビーナス」を読んで考えた嘘であること。
女王の告白を聞いてレオポルトはどうしたか。それは次回。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


 
  【No.22 Res.0】

その15


1 Name 鈴木♂
 
そこにいるのは、怯えたただのお針子女だった。
ワンダはアリスでもエミリーでもなかった。しかし‥‥レオポルトは思った。
「あの夜、私の背中に鞭をふりおろしたのは確かにこの女だし、今まで私を騙し
通した女である。この女には素質がある。だったらワンダを私の理想の女に
仕立ててやろうじゃないか」
今まで、小説の中で理想のミストレスを書き続けてきたレオポルトが、
実生活で理想のミストレスを作り上げようと考えたのだ。

ワンダが人妻でないのなら。
レオポルトとワンダは正式に結婚した。
グラーツ西北の田園都市ブルックに屋敷を買い生活を始めた。
レオポルトが著作で収入を得、ワンダが家庭を切り盛りする。
レオポルトとワンダの間には二人の子供も誕生した。
レオポルトは著作で忙しかった。ワンダはブルックの社交界へ出入りをし、
貴族の奥様方と語らったりもした。
ワンダの望んだ上流階級の暮らしが訪れた。めでたしめでたし。

いいや。一見平和な家庭だが、そこはレオポルトの作・演出・主演(奴隷役)、
ワンダの共演(ミストレス役)によるマゾの劇場でもあったのだ。
レオポルトは色々な遊びを試みた。
まずは盗賊ごっこ。ワンダと女中のマリーが盗賊になって、レオポルトを
縛り上げるという遊びだ。
縛られたレオポルトはワンダに鞭打ちを求めた。ワンダはマリーの前での
鞭打ちは嫌だと部屋に帰ってしまった。残されたのは、縛られたレオポルトと
鞭を手にしたマリーだ。レオポルトは仕方なくマリーに鞭打たれた。
翌日、その話を聞いたワンダはマリーに嫉妬し激怒、マリーを解雇してしまった。
他にも、体格のいい女中と、レオポルトは本気でプロレスごっこをした。
ワンダはただあきれて見ていた。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


 
  【No.21 Res.0】

その16


1 Name 鈴木♂
 
近所にレオポルトの子供の頃の友人、フェルディナント・シュタウデンハイム男爵
が引っ越して来て、度々遊びに来るようになった。
シュタウデンハイムはスポーツマンで男らしく、しかも奥方とあまりうまくいって
いなかった。レオポルトはシュタウデンハイムが遊びに来ると、席を立ってワンダと
二人きりにしたりして、浮気をそそのかしたりした。
しかし、ワンダはシュタウデンハイムに心惹かれながらも、その時は一線を越える
ことは出来なかった。ワンダにとっては、夫以外の男と寝るのは反道徳的な行為で
あるというのが、まだこの時はあったからだ。

レオポルトは苛立った。
そして、ワンダにグラーツへ行って、誰でもいいから男と寝て来い、と命じた。
毛皮のコートを着て、派手な化粧をし、ホテルや劇場をうろうろすれば必ず男が
声を掛けて来るはずだ。
「マゾッホが妻に娼婦をやらせた」というのはこのことだ。
しかし、実際にワンダをグラーツへ行かせるとレオポルトは嫉妬でたまらなくなった。
結局すぐに電報を打ち、一日でワンダを呼び戻した。
この一晩に何が起こったのかをレオポルトは知らない。
ひょっとしたら、ワンダはシュタウデンハイムと逢引をしていたのかもしれないし、
レオポルトが知らない通りすがりの男に抱かれていたのかもしれない。
一人でホテルの部屋で何もせずに過ごしていたのかもしれない。

レオポルトは勿論、ワンダと交わした奴隷契約書を守り、いつもワンダを敬う態度
でいた。縄で縛られて鞭で打たれていたのは確かにレオポルトなのだが、ミストレス
という縄でワンダを縛っていたのもマゾッホ劇場の演出家のレオポルトに他ならない。
そして、このマゾッホ劇場は、ワンダだけでなく、多くの人たちを巻き込んでいった。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


 
  【No.20 Res.0】

その17


1 Name 鈴木♂
 
1877年、レオポルト一家は経済的に苦しかった。
レオポルトの著作の売れ行きがよくない。
講演会をやっても人が集まらない。人が集まらないのはレオポルトを嫌う連中が
悪い噂を流した。「マゾッホ夫人は誰とでも寝る女だ」。って、その噂のもとを
つくったのはレオポルトなんだが。
さらには、パリのエージェントが「毛皮を着たビーナス」などの印税をネコババした。
こうした経済的困窮も原因し、レオポルトとワンダの関係は冷え切っていた。
事実、この頃には、ワンダはレオポルトとのベッドを拒み、別の複数の男性と
関係を結んでいたらしい。

レオポルトは健康を害して、ワンダと別居し、グラーツのアパートで独り暮らしを
する。健康を害してというのは言い訳で、お互いに離婚を考えていたらしい。
「あなたの私に対する愛は、私が糞の上でくたばるのを見たいという望みに
変わってしまったのだから‥‥」、レオポルトがワンダに宛てた手紙の一文だが、
しかし、よくわからん。
この二人は普通の夫婦の関係ではない。マゾッホ劇場の住人の手紙を文字通りに
受け取っていいのか。「糞の上でくたばる」はそれこそスカトロージー的な
新たなゲームでも思いついたのか(そんなわけはない!)、さてさて、レオポルト
とワンダの夫婦関係はどうなりますかは次回。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


 
  【No.19 Res.0】

その18


1 Name 鈴木♂
 
1880年、レオポルトは生活安定のため、ハンガリーの雑誌「文学娯楽新聞」の
編集長の職に就き、一家はブタペストへ引っ越す。ブタペストにはレオポルトの
従兄弟らもいて、家具付の高級アパートも用意されていた。
ブタペストは大草原と山々に囲まれた素朴な街で、レオポルトはこの地で
彼の中に流れる東欧的なものを呼び起こされ新たな創作意欲にかられた。
経済的にも創作意欲にも満たされたレオポルトは、ワンダとの関係もつかの間の
やすらいだ日々を過ごしたようだ。

レオポルトに運が向いてきた。
1881年「頂上」という雑誌の創刊にあたり、レオポルトは編集長として招聘された。
「頂上」はドストエフスキーやビクトル・ユーゴーも寄稿するような、今流に言えば
鳴り物入りで創刊のメジャー雑誌といったところだろう。
レオポルト一家はふたたびドイツの大都市ライブツィヒへ引っ越した。

ドイツの社交界はレオポルトをあたたく迎えた。「頂上」の編集長になったことで
今までレオポルトを嫌っていた連中も揉み手をして擦り寄ってきた。
レオポルトは作家や文化人の集まるパーティにも引っ張りだこだった。
しかし、同道したワンダはパーティの席で無教養な地金を出してしまい、
度々恥をかいた。ある意味でワンダが可哀想である。

そうこうするうち、レオポルトと「頂上」のオーナーとの意見があわず、
オーナーが「頂上」から降りてしまった。「頂上」の経営がレオポルトに
掛かってきた。しかし、「頂上」は魅力的な雑誌だったので出資をしようという者が
多く現われ、経営はうまくいった。
出資者の一人にフランスの金満家の息子でアルマンという青年ジャーナリスト
がいた。金満家というわりには小額しか出資しなかったものの、アルマンは
ジャーナリストを志していて、是非レオポルトの元で勉強したいと言うので、
レオポルトはアルマンを編集助手として雇った。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


 
  【No.18 Res.0】

その19


1 Name 鈴木♂
 
アルマンこそがギリシァ人だった。「毛皮を着たビーナス」のギリシァ人役という
意味です。ホントはフランス人で(あとでわかるんだけど、実はフランス人でも
なかったんだ)。あーっ、面倒臭いナァ。
アルマンは女性の耳元で甘い言葉を囁いたり、女性の前に拝跪したりはしない。
その代わり、かゆいところに手が届くような優しさを見せる。
編集助手として、アルマンはいつもレオポルトの側にいる。
ワンダがアルマンの虜になるのは時間の問題だった。ワンダにとってのアルマンは、
レオポルトの演出による虚構のギリシァ人ではなく突然現われた運命の男に思えた。

「頂上」の経営は苦しかったが、それを支えていたのは、レオポルトの優れた編集
能力と、社交界と文壇における彼の顔の広さだった。
レオポルトにとって「頂上」は世界的な文学者たちと筆を競い合える晴れ舞台
であった。だから、「頂上」の経営には力を注いだ。「頂上」はレオポルトに
とってなくてはならぬものだった。
時にレオポルト45歳、ワンダ36歳。
レオポルトは「頂上」の仕事に忙しく、資金集めのためにドイツ社交界を走りまわり、
ついでに何人かの奥様方とも浮名を流していた。
そして、ワンダとアルマンも親密な関係になった。

アルマンにもともと野心があったのか、それともワンダがそそのかしたのか。
ワンダはレオポルトの秘密の日記や、社交界で交際のある奥様方から届いた
ラブレターをアルマンに見せた。
アルマンはこれらを種にレオポルトを脅迫した。
たとえ社交界では公然のことでも、おおやけに公開されればせスキャンダルになる。
「頂上」はレオポルトでもっている雑誌で、レオポルトのスキャンダルによる
失墜は「頂上」の危機である。
しかも、アルマンがレオポルトに要求したのはなんと「頂上」の経営権と編集長の
椅子だった。
レオポルトは驚いた。冷え切った関係とはいえ、レオポルトはまだワンダを愛して
いた。それに編集助手としてのアルマンをたいへん可愛がっていた。
愛する妻と弟子からの裏切り、しかも彼らは、レオポルトが一番力を注いでいる
仕事を奪おうとしているのだ。
すったもんだがあり、レオポルトはボロボロだった。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


 
  【No.17 Res.0】

その20


1 Name 鈴木♂
 
一方で、作家としてのレオポルトは人生最高の栄光を迎えていた。
1883年1月27日、レオポルト・フォン・ザッヘル=マゾッホの文学生活二十五周年を
記念したアルバムが発刊された。それには、「レ・ミゼラブル」のビクトル・
ユーゴーをはじめ、イプセン、ゾラ、アレクサンドル・デュマ、ルビンシュタイン
ら有名作家たちが祝辞を寄せた。
そして、その記念パーティが行われた翌々日、ワンダはレオポルトを棄て
アルマンを選んだ。家にある財産の全てを持ってアルマンと駆け落ちしたのだ。

レオポルトは失意のどん底に突き落とされた。茫然自失となり、しばらくは何も
手にはつかなかった。
レオポルトの心を慰めたのは一人の女性だった。
「頂上」でレオポルトの秘書を務めていたフルダ・マイスター、27歳。
フルダは西プロセインの田舎町生まれ。若くして単身海を渡り、中米コスタリカの
大統領の子供たちの家庭教師となる。帰国後も家庭教師や翻訳の仕事を経て、
25歳で「頂上」の秘書となった活動的な才女。フルダは乗馬服が似合いロシアの
大草原を馬で駆け巡るタイプに見えたという。細身で、中性的な魅力があった。
そして、フルダの手には、細身の乗馬鞭が握られていた。

うーん、どんな時にも鞭がないと話が先に進まないのか。しかし、今まで
レオポルトとかかわってきた女性はナイスバディが多かったし、ワンダが
レオポルトを打った鞭は一本鞭だった。
フルダは細身で中性的で乗馬鞭。
紆余曲折を経てマゾッホ先生の趣味も変わっていったのか。

さて、ワンダとアルマンはどうなったのか、レオポルトの晩年の暮らしは次回。
 
[PC]
 Del

Password (投稿パス)
Name
Mail
Comment
 
 


Next



5331Hit.