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【No.24 Res.0】 その13 1 鈴木♂ アリスはワンダ・ドゥナーエフと名を変える。 そして、レオポルトに奴隷契約書に署名するよう迫る。 かつてファニーと交わした6ヶ月限定の奴隷契約書ではない。生涯をワンダの 奴隷として過ごすという過酷な(レオポルトにとっては餌でしかない)ものだった。 この契約書に署名すれば、レオポルトは家族や親戚や友人や仕事、一切の世俗と 縁を切り、ワンダの奴隷とならねばならない。レオポルトはそれを望んだ。 しかし、実際には無理だ。何故ならワンダはお針子のラウラで、奴隷を飼う家も 経済力もない。ワンダが求めたのはレオポルトを奴隷にすることではなく、 レオポルトの妻になって上流階級のチケットを手にしたかっただけなのだ。 奴隷はそのための餌でしかない。 契約書は変更された。ワンダがレオポルトの名誉を傷つけないこと、文学活動を さまたげないこと、他の男と浮気はしても愛しているのはレオポルトだけである こと。 最後の一項がレオポルトにとっては重要であった。レオポルトはむしろ鎖で繋がれ 鞭打たれる奴隷の生活を望んでいたのだが、彼がもっとも恐れたのはワンダの 心変わりであった。かつて妹のローザが死をもって自分の前から永遠に消えて しまったように、ワンダが心変わりで自分の前から消えてしまうことを恐れた。 やっと現われた女王を失いたくなかったのだ。 レオポルトは悩みぬいた揚句、最後の一項が加えられた奴隷契約書に署名した。 7月13日のことだった。
二人はしばらくの間、グラーツで同棲をした。 レオポルトにとってはいつワンダの夫が現われワンダを奪い返しに来るかという 不安、ワンダには夫の存在のないことがレオポルトにばれてしまう不安が つきまとった。
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