評伝ザッヘル=マゾッホ




 
  【No.29 Res.0】

その8


1 Name 鈴木♂
 
レオポルトはアンナと別れた。
しかし、アンナとの恋により、レオポルトは作家としての道を歩むこととなった。
まだ未発表であるが、「毛皮を着たビーナス」の構想はアンナとの暮らしのうちに
練られていたという。

レオポルト30歳。「コロメアのドン・ジュアン」という作品を発表する。
アンナと別れ、別に金が必要なくなったレオポルトは、一般受けする通俗小説
でなく、自分の書きたいスラブの男女の葛藤を描く物語を書いていた。
これらの作品により、小ロシアの詩人としておおいに注目されはじめていた。
レオポルトのまわりには、女優や女流小説家志望の若い女性たちが集まってきて、
それなりに浮名を流していた。しかし、彼女たちの目的は、注目の人気作家を
とりまいて、自分が仕事を得ようという野心がほとんどであった。

レオポルトの前に一人の少女が現われた。ファニー・ピストールという作家志望の
魅力的な少女で、作品を持ってレオポルトを訪ねて来た。作品はただの少女小説
だったが、レオポルトはファニーの美しさに魅せられた。ファニーを「毛皮を着た
ビーナス」のワンダと重ね合わせた。ファニーなら毛皮と鞭がさぞ似合うに違いない。
レオポルトはファニーに毛皮のコートをプレゼントした。
そして、二人で写真館へ行き、毛皮のコートを着て鞭を手にしたファニー、その横で
下着姿になって跪くレオポルトの2ショット写真を撮った。

それからレオポルトとファニーは、フィレンツェに旅行した。
恋人同士の旅行ではない。
ファニーは毛皮のコートを着た男爵夫人、レオポルトは下男の服を着て彼女の従者
としての旅行だった。
レオポルトはファニーの荷物を持ち、人前で跪き、命令されれば靴に口づけをし、
粗相をして殴られたりもした。
レオポルトは下男の役を演じ、ファニーは男爵夫人を演じたのた。
観客はフィレンツェの社交界人たち。この芝居の作・演出はレオポルト自身だ。
レオポルトはフィレンツェ旅行の六ヶ月間、ファニーの奴隷になるという奴隷契約書
を作り署名した。しかし、これは奴隷契約書というよりは、フィレンツェ旅行の間、
二人がどうふるまうかを事細かに記した、奴隷芝居の脚本のようなものだった。

フィレンツェ旅行から戻ったレオポルトとファニーはすぐに別れた。
ファニーは真のミストレスではなかった。レオポルトはファニーをミストレスに
育てようとしたが、ファニーはレオポルトの脚本通りに男爵夫人の役を演じただけ
だった。
レオポルトから見たファニーは、かつて弟妹に見せた人形劇の人形でしか
なかったのだ。
ライツェンシュタイン夫人はグラーツ文壇では有名な女流作家だった。
レオポルトは彼女と文通していた。二人は一度だけウィーンで会い、美酒に
酔いながら愛や哲学について語った。しかし、それ以上の関係にはならなかった。
ライツェンシュタイン夫人は教養あふれる詩人ではあったが、やはりレオポルトの
理想とは違った。
そうこうするうちに、いよいよ代表作の「毛皮を着たビーナス」発表、
レオポルトの生涯でもっとも深い関係を持つワンダとの出会いがあるが、
それは次回。
 
[PC]
 Del

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