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【No.31 Res.0】 その6 1 鈴木♂ 妹のローザが死んだすぐ後、一家はふたたび父の転勤で引越しをする。 今度も都会で、学問の都グラーツだ。 レオポルトは大学へ入る。入学試験はすこぶる優秀で、ドイツ語の論文では 教授から満点以上の評価を得た。 大学に進んでからは、手当たり次第本を読んだ。化学、錬金術、歴史、天文、 哲学、その他色々な雑学本……。シェイクスピアを読み、セルバンテスを読み、 ゲーテを読み、イスラムのコーランを読んで、動物図鑑や医学書も読んだ。 ちょっとでも心を魅かれ手にした本は読んで読んで読みまくった。 勉学だけが、妹のローザの死の悲しみを忘れさせてくれた。 父の意思に従い、法律も勉強し、19歳で法学博士になった。 20歳で大学の教壇に立った。 歴史や文学に興味を持ち、ドイツ史の勉学に力を入れた。
ところがレオポルトが発評した論文「ガンの叛乱」は学界から無視されてしまった。 「ガンの叛乱」は、1539年ネーデルランドで起こった市民叛乱を鎮圧した カール五世の妹マーリアについての論文。マーリアは強靭で残酷な意志を持ち、 軍事に関する知識、能力に優れ、屈強の男たちを従えて敵と戦い勝利した。 反乱軍兵士の処刑の書類には眉一つ動かさず署名をしたという。 なんのことはない、今度は歴史上の人物の中に自分の理想の女性を見つけ、 それを熱く語ったのだ。 論文が認められず、学者としての道も断念したレオポルトだが、貴族の家の子 だから生活に困るということはない。好きな勉強をしたり、素人演劇を楽しんだり といった日々を過ごしていた。
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