1 鈴木♂

Memento Mori (メメント・モリ)

鈴木♂は7月初めに行われた勤め先での健康診断に引っ掛ってしまいました。
胸部レントゲン撮影の画像で、肺に影が見られるとの通知が来たのです。

先月は明智伝鬼氏が亡くなられたり、私よりも二つ年上の杉浦日向子さんが癌で
亡くなられたりして、私にとって「死」というものを身近に意識せざるを得ない月
でした。
杉浦日向子さんは近年、NHKのバラエティ番組に出演している笑顔の可愛らしい
和服姿の時代考証家のおばちゃんというイメージがありますが、今から20年以上
前の新人漫画家だった頃の彼女は、ヘビーなルックスの妖艶な女性でした。

鈴木♂は、肺の精密検査をせよという通知を仕事の忙しさを理由にして半月以上
スポイルしておりました。
その間、両親の事やお金の問題など色んな事を考えましたが、もし肺癌だったと
したら連絡が取れる過去のお相手さんたちに最後のお別れを告げるべきかという
事も考えました。
私の年齢(現在44才)からすれば、癌だとしたら余命は短いと思ったからです。
(PC)
2 鈴木♂
8月に入って得意先の各メーカーも夏休みに入り、鈴木♂の仕事にも多少の
余裕が出てきました。
そして先日、鈴木♂は大きな総合病院で肺の精密検査を受けたのでした。

予約無しで飛び込んだせいもあるのですが、午前中にCTスキャンなどの検査を
やっと終えて、医師の診察を受けたのは午後の二時頃になっていました。
十数枚のCTスキャン画像を次々と並べている医師を前にして、私はすでに
それなりの覚悟を決めていました。
しかし、医師の説明は簡単で意外な程あっけないものでした。

私の肺の中に太い血管がクロスしている場所があって、その部位がレントゲン
撮影では影に見えたのではないのかとの事。
「肺自体は綺麗なもんですよ」とその医師は言っていました。
それを聞いた鈴木♂は確かにホッとしたのですが、何故か手放しで喜ぶ様な
気持ちにはなれませんでした。
生きている者は必ず死にます。
今回、私は幸運な事に「セーフ」でしたが、来年は「アウト」かもしれません。
そう考えると素直に喜ぶ気分には何故かなれませんでした。
(PC)
3 鈴木♂
”Memento Mori”とは「死を思え」という意味のラテン語の諺です。
この諺は人によって色んな解釈があるみたいですが、私なりの解釈をすると
「お前が今やっている事は、自分が死ぬ時に思い出しても恥ずかしくない事か?
後悔しない事なのか?」という事です。

今回の一件では鈴木♂はかなり色んな事を考えました。
年に一回位は自分が不治の病に罹ったり、死んだ時の事をシュミレートするのも
間違ってはいないと思いました。
ここに今回の一件を書けるのも、たまたま「セーフ」だったからであって、もし
「アウト」だったらとても書けないと思います。

今回はちょっとシビアなお話を書いてみました。
次回以降は楽しいお話を書きたいと思います。
(PC)