1 鈴木♂

軍服

私の古い知人に軍装品マニアの人がおりました。
その人は第二次大戦中、特に旧日本軍で使われていた本物の軍服を収集する
というのが趣味でした。
彼は集めた大量の軍服を、自宅の二階の一室を専用の保管所にしてコレクション
していたのですが、彼の話を聞くと色々と不思議な事が起こるのだそうです。

例えば深夜になるとその部屋から会話が聞こえてくるなどというのは日常茶飯事
で、ある晩彼が自室で布団に入り明かりを消して、さぁ寝ようとしてふと部屋の
壁を見ると、暗闇の中に旧日本海軍士官の白い夏服が浮かんでいるのが見えた
そうです。
その時、彼はウトウトしていたので「あんな所に軍服を吊るしておいたかな?」と
思ったそうなのですが、翌朝目が覚めてみるとやはりそこには軍服は無かった
そうです。

その家は庭に砂利が敷いてあって、誰かが家を出入りすると足音がはっきりと
聞こえるそうなのですが、その家の庭から階段を通って二階の保管所まで
誰かが勝手に出入りしている足音が聞こえるなどという事も日常茶飯事なのだ
そうです。
私は彼に「怖くはないのか?」と聞いた事があるのですが、彼に言わせると
その程度の話は軍服コレクター仲間の間ではごく当たり前な話なので、慣れて
しまえば怖くはないとの事でした。

そんな彼が一度だけ怖いと思った体験は、彼がナチスドイツ時代のドイツ空軍
下士官の軍服を入手した時の事だったそうです。
その軍服はマニアの間でも有名な軍服で、何故有名かというとその軍服を所有
しているコレクターの所に、それを着ていた本人(当然の事ですが死人です)が
必ず挨拶に来るという有名な軍服なのだそうです。

彼の所にも、やはり深夜そのドイツ軍人が挨拶に来たそうです。
それがどんなシチュエーションだったのか、細かい所は聞き忘れましたが
さすがの彼もそれにはビビってしまい、気を失ってしまったそうです。
「やっぱりドイツ人にはお経が効かなかった」と彼は話しておりましたから
どうやら必死でお経を唱えたみたいですね。
なお、その軍服はさすがの彼も手放してしまい、今はマニアの間をさまよって
いるのだそうです。
(PC)