1 鈴木♂

誰もいないドア

私が以前「怪談」というタイトルのお話をこのサイトで書いた事がありますが
その中に登場する、今はもう地元の名士となっているB君に私が聞いたお話です。

B君はそれから自分が勤めていた工場の社長さんに見込まれて、その社長さんの
娘さんと結婚し、現在ではその工場の社長さんとなっております。

今から十数年前のある夜の事でした。
B君と奥さんは寝室でベッドに入り、これから休もうという普段通りの日常生活
を送っておりました。
その時、読書家であるB君はベッドに入っても部屋の明かりを点けて、読書を
していましたが、奥さんはその時布団をかぶって休もうとしていたそうです。

そんな普段通りの平和な日常は、寝室のドアをノックする音で破られました。

B君は読書を止めて寝室のドアに注目しましたが、やがてドアのノブが回り
寝室のドアがゆっくりと開きました。
B君は最初、家族の誰かが急な用事があって自分達夫婦の寝室を訪れたと思った
そうなのですが、開いたドアを見るとそこには誰もいなかったそうです。

B君はその瞬間、自分達夫婦の寝室を訪れた訪問者がこの世の人ではないと
気づきました。
その時、B君の奥さんはまだ眠りに入っていなかったそうなのですが、ただならぬ
雰囲気を察知した奥さんは布団を深くかぶって、じっとしていたそうです。
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2 鈴木♂
B君はその時、部屋の明かりが急に暗くなって、気温も低くなった事を感じ
たそうです。
B君は度胸のある人なので、開いたままの寝室のドアに向かって
「お前が来た事はよく分かった!お前が何者なのか分からないが、お前が来た事や
来た時刻はちゃんと記録しておくから、今日はこのまま大人しく帰ってくれ!」
と叫んだそうです。

それから部屋の明かりが普段通りの明るさに戻り、部屋の雰囲気も普段通りに
なった事を確認したB君は、寝室を出てその騒ぎに驚いて起きて来た家族を尻目に
家の配電盤のブレーカーを確認しましたが何も異常は見つからなかったそうです。

そして、その事件から二、三日たったある日の事でした。
B君の元に北海道からあるハガキが届きました。
それは以前、B君がまだ若い頃に同じ職場(B君が現在社長をしている工場)で
働いていた女性が亡くなったという、その家族からの訃報でした。

「彼女は明るい女性で一緒に仕事をしていると楽しかった」とB君は話して
おりました。

親しい人が亡くなる時には、やはり不思議な事が起こるみたいです。
B君は霊感が強い人らしく、色んなお話を私に聞かせてくれましたが
夏なのでそのお話を一つ、ここに書いてみました。
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