1 鈴木♂

あれから一年

私の好きな小説家にカート・ヴォネガットというアメリカ現代文学の作家が
いるんですが、彼の小説の中にこんな一節があります。

「夏休みで門の閉ざされたノア・ローズウォーター記念ハイスクールまでくると
 彼は旗竿の前で足をとめ、淡い憂愁に浸った。
 用のなくなった掲揚綱の金具が、中空の鉄柱をわびしげに叩いたり、
 さすったりしている音に、心をひかれたのだ。
 彼はその音に対する感想を述べたくなり、ほかの誰かにもその音を聞かせたく
 なった。だが、そばに居合わせたのは、さっきから彼のあとをついてきている
 一匹の犬だけなので、彼はその犬に話しかけた。
 『あれはほんとにアメリカ的な音だよ、わかるかい? 学校が休みで、
  旗が下ろされたあとのあれ。 すごく物悲しいアメリカの音。
  日が沈んだあとに、あの音を聞くとたまらないだろうな。
  夕方のそよ風が吹いてきてさ、世界中が晩ごはんの時間なんだ。』」

【ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを】
        (”God bless you , Mr.Rosewater”)より
(PC)
2 鈴木♂
新潟県中越地震から今日で一年です。
あの日の夕方の事を今でもはっきりと覚えていますが、上記の一節に書いてある
様な天気の良い平和な秋の日の夕方でした。
あの時、私は会社の裏口にいて天気が良いのでちょっと洗車でもしてから帰ろう
かなと思いながら、ぼんやりと日の暮れかかった空を眺めていたと思います。
その瞬間、遠くから凄い地鳴りが聞こえてきました。

あれから一年が過ぎて、長岡市でも一部の崩落現場を歴史的な記念として残そう
という話が出てきていますし、脱線したJRの「とき325号」も福島県の総合研修
センター内の事故車両展示施設に保存される事が決まりました。

中越地震に限らず、天災や事故で被害に遭われた方が一番望んでおられる事は
たぶん「あの日」の前の日に戻りたいという事だろうと思います。
しかし時間というものは、けして逆戻りはできませんし、人間というものは
自分の意思がどうであれ、結局は前を向いて自分が一番良いと思う方向に進んで
行くしかない生き物だろうと私は思っています。
(PC)