1 鈴木♂

SMという世界のビジュアル化

SMという精神世界をどうやってビジュアル化して表現するのかという試みは
大正時代末に伊藤晴雨氏が日本で初めて緊縛写真を撮影してから現代に至るまで
ずっと続いている事なのですが、最近上演された舞台劇「花と蛇」の様な舞台劇で
SMというものを表現しようという試みは、緊縛写真が登場した次に出現した
手法でして、濡木痴夢男氏の著作「奇譚クラブの絵師たち」によれば昭和28年頃
にはSMを題材とした舞台劇が空襲で焼け残った東京の小さな劇場で細々と上演
されていたそうです。

そしてこの試みはやがてストリップ劇場でのSMショーとなり、更には中小映画
会社によるピンク映画から大手のにっかつロマンポルノ映画となって、'80年代に
入るとSMビデオや縄師さんによる緊縛ライブへと代わっていった訳なのですが
特にビデオというメディアがSMという世界を表現する手法の主流となった
'80年代以降はにっかつロマンポルノなどの劇映画がそれまでに持っていた
ストーリー性というか演劇性が大幅に失われて行ったのではないかと鈴木♂は
思います。

そんな現状がインターネット全盛の時代である21世紀に入った今日でも続いて
いるのではないかと思いますが、そんな中で今回行われた「花と蛇」という舞台劇
は、メディアや文明が発達するに連れてSMという世界を表現しようとする手法
からどんどんと失われていった演劇性やストーリー性、臨場感を現代に再興しよう
とした、古くて新しい試みなのではなかったのかと。
(PC)
2 鈴木♂
鈴木♂は'80年代前半に当時名前が売れ始めた頃の明智伝鬼氏のビデオを見た事
がありますが、それは大きなスタジオの中で明智氏とモデルさんが照明を浴び
ゆっくりとしながらもリズミカルに緊縛ショーを行うというものでした。
そして最後には明智氏が縄を解いたモデルさんをしっかり抱きしめて、耳元で
何かをささやきながら終了するというものでしたが、今から考えると明らかに
舞台での上演を前提とした演技性のある緊縛ショーをビデオ撮りしたものでは
なかったのかと思います。

明智伝鬼氏という人は'70年代に何をしていた人なのか鈴木♂にも詳しくは分かり
ませんが、そのビデオを見た限りではストリップ劇場などでのSMショーや
少なくとも舞台や演劇に関わる何かの仕事をしていた人ではないかと鈴木♂は
想像できました。

'70年代という時代は今では考えられない程、小劇団やアングラ劇団が乱立して
いた時代でして、生活費や活動資金を得る為にこうした劇団員さんたちが
ストリップやSMショー、金粉ショーやポルノ映画に出演するといった事が
普通にあるという時代でもありました。
特に緊縛モデルというアルバイトはギャラが良いので「SMコレクター」などの
当時のSM雑誌ではこういった劇団員さんたちがよく登場していたみたいです。

ですから当時の事を知る鈴木♂の様な乙さんもそうなのですが、古くからのSM
マニアや演劇ファンにとって、今回の舞台劇「花と蛇」は月蝕歌劇団というちょっと
マイナー?な劇団とSMの融合という'70年代を思い起こさせる懐かしい物を見た
という方が多かったのではないかと鈴木♂は思います。
(PC)